遺伝
 


1996年7月5日スコットランドのロスリン研究所で、一匹の子羊が生まれました。性別はメス、名前はドリーと名付けられました。
この外見上は何の変哲も無い子羊は、その半年後の1977年2月22日に誕生を公にむけて発表されると、 世界的なセンセーションを起こすこととなります。
ご存知かとは思いますが、これがクローン羊ドリーです。

ドリーは世界ではじめての哺乳類の体細胞クローンです。6歳の雌羊の乳腺細胞から「造られた」ドリーは、 この細胞提供者である羊とほとんど同じ遺伝子を持っていたのでした。 ドリーは1998年4月に子羊ボニーを出産します。これはクローンにも生殖能力があるという証明となりました。

しかしその後の研究によって、ドリーの染色体中のテロメアが短いことから、彼女が生まれつき老いている、 つまり遺伝元の羊が6歳であったため、ドリーは生まれながらにして6歳の遺伝子を持っていたのではないかと推測されました。 この推測は、ドリーが5歳の時に関節炎をおこして、異常な若さで衰弱していったことで説得力を増しました。

ドリーは2003年2月14日、ヒツジ肺腺腫という病気によってによって6歳で死亡しました。 剥製になったドリーは、エジンバラ王立博物館におさめられました。

ドリー以後、哺乳類のクローン実験が相次ぎ、多くのクローン動物が各国で生まれました。 ドリーはその衝撃的な科学的成功と、早すぎる衰弱と死という負のイメージをあわせ持つことで、 夢と可能性に満ちた科学技術であることと裏腹に、危険性と倫理的な問題を孕んでいるクローン技術にとっての象徴的な存在となりました。